HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)に限らず、ワクチンを接種することが安全かどうかを巡って疑問が生まれることがあります。HPVワクチンの場合は、2013年4月の定期接種開始後、副作用として持続的に疼痛が起こるといった疑いのある例が、マスコミを通じて報道されました。
政府のワクチン分科会で検討の結果、そうした症状とHPVワクチンの因果関係が否定できないことから、HPVワクチンの積極的勧奨を2013年6月より一時差し控えるという措置が講じられました。その後、懸念事項であった安全性が確認されたため、2022年4月よりHPVワクチンの定期接種の積極的勧奨が再開されています。
HPVワクチンの安全性は確認されている
ワクチンが安全かどうかについて、科学的に検討することは極めて重要です。HPVワクチンの安全性を示す研究の例は、諸外国、日本を含め以下のようなものがあります。
- ワクチン接種後に体位性頻脈症候群(POTS: 立ち上がると、立ちくらみや動悸が激しくなると言った症状)が起こる可能性は、約605万件に1件と極めて少ない。(米国における2006年から1015年までの症例調査)
- 4価ワクチン接種後に頭痛、疲労、吐き気などの重篤な症状が現れたケースは、100万件に対して19件の確率と極めて小さい。4価ワクチンはそれまでの2価ワクチンにおける安全性と一致するものと確認された。(米国における2009年から2015年までの症例調査)
- ワクチン接種前と接種後の長期にわたる追跡研究がオランダにおいて行われ、対象となる女子694,29人について調べた結果、慢性疲労症候群(CFS)や長期の疲労(3ヶ月以上6ヶ月未満または6ヶ月以上続く疲労)の発生について、ワクチン接種前後で有意の差は見られなかった。
- HPVワクチン接種前に較べてワクチン接種後に、自己免疫症候群(免疫の変調による疾患)への罹患が増えるかどうかを検討する研究がフランスにおいて行われたが、ワクチン接種によって自己免疫症候群罹患のリスクが有意に高まる可能性は認められなかった。(2007年から2014年までの研究)
- 2価ワクチンを実施しているフィンランドにおいて、2013年から2016人のワクチン接種者134,615名について、接種前後の自己免疫性疾患その他の症候群について調査したが、ワクチン接種による対象疾患の罹患リスクの明らかな増加は認められなかった。
- わが国においては、名古屋市で1994年から2001年に生まれた女性を対象に、質問紙による有効回答が得られた29,846人のデータを解析した。その結果、ワクチン接種後に報告された24の症状について、接種者のグループと未接種者のグループでは統計的に有意な差が認められなかった。
これらの研究に加え、ワクチン接種者の数は世界中では膨大なものになっているにもかかわらず、安全上の懸念を示す兆候が見られていないことも安全性を示すものとして見逃せません。
こうしたことから、ワクチン接種の接種をむやみに恐れる必要はない、ということが言えます。
ワクチン接種の病変リスクより、がんによる死亡を防ぐ可能性は遙かに高い
むろんHPVワクチンの接種によって何らかの重篤な症状を来す可能性はまれとは言え、ゼロというわけではありません。大事なことは、HPVワクチンは、ワクチンの接種によって健康が損なわれる可能性よりも、子宮頸がんよって命が救われる可能性が遙かに高いことです。ワクチン接種によって子宮頸がんの発生率を劇的に減少させること、すなわちHPVワクチンの有効性も確認されていることから、子宮頸がん撲滅のために、HPVワクチン定期接種は強く推奨されているのです。
HPVワクチンについてはこちらもご覧ください。
参考資料
第26回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 資料5-2
第26回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 資料1-2